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できるなら、人生にはエレガントなアティチュードで向き合いたい。
―― 野尻さんは、コピーライターの傍ら、鎌倉で「大佛茶廊」を経営されていますが。
野尻氏: 話が長くなりますが、ちょっと聞いてください。フリーのコピーライターという職業は、年齢を重ねていくとどうしても仕事量って減ってくるんです。ただ、広告制作の仕事って半ば遊びのようなおもしろさがありますから、仕事が減るということは楽しみが減ることに直結してしまう。これは苦痛ですよね。そんな転機に直面していた頃、ある本と出会ったわけです。Calvin Tomkinsという作家が書いた『優雅な生活が最高の復讐である/Living Well is the Best Revenge(新潮社文庫)』という本。タイトルに惹かれて思わず買った本です。
裕福なアメリカのジェラルドとセーラのマーフィー夫妻が、’30年代に故国を離れてフランスで暮らす話が書かれています。いわゆる「パリのアメリカ人」の時代、当時パリというのは芸術の都として多くの文化人たちが集っていました。アメリカ人では作家のスコット・フィッツジェラルド夫妻やアーネスト・ヘミングウェイなどが暮らしていた頃のパリ。絵画や演劇も、舞踏もすごく盛り上がっていた時代です。彼ら以外に世界中からいろんなアーテイストが集まっていました。しかし、アメリカから渡仏したマーフィー夫妻は、芸術家でもなんでもないのに、たちまち磁石のように有名な芸術家たちを引き付けて、サロンの中心人物になるわけです。たとえば、ジャン・コクトーやピカソなどもマーフィー夫婦のまわりに集ってきた連中の仲間だったそうです。
なぜ、多くの人を惹きつけたかというと、その理由の核心にはマーフィー夫妻の人生に対する考え方があったわけです。それが読んでいてものすごくおもしろかった。つまり、「人生というのはそのままのカタチでは耐え難いものである。自分が手を加えて初めて生きる価値のあるものになる」と。その発想を実践することでマーフィー夫妻は衣・食・住の全般における独特のスタイルを確立し、多くの芸術人たちを惹きつけたわけです。ちなみに、なんとリビエラを発見したのは彼らだったんですよ。
で、夫であるジェラルド・マーフィーの、ある言葉がこの本の中に書かれていました。
「良いときも悪いときも、人生にはエレガントなアティチュードで向き合わなければならない」。このワンセンテンスには強烈なショックを受けました。目から鱗が落ちたと言いますか・・。この言葉に触発されて、自分のアティチュードを振り返ってみたわけですね(笑)。そのとき、たまたま祖父(作家・大佛次郎)が遺した鎌倉の家のことに思いが至った。ソコで何かエレガントなことができないか、と。
たとえば、レストランで高級なシャンパンを飲めるヤツは何も考えずに飲めばいい。それが飲めなくなったならば、今度は自宅で飲めばいい。あるいは、高級なシャンパーニュをサーブする側に廻ったっていいじゃないか、と思ったんです(笑)。シャンパーニュを飲めなくなったからと言って、安価な発砲ワインで我慢するのはエレガントじゃない。それは、僕には向いていないな・・。そんなことを考えながら、鎌倉の祖父の別宅に手を加えて「大佛茶寮」をオープンさせたんです。
野尻 芳英氏
野尻氏のインタビューは、鎌倉「大佛茶廊」の屋敷内で行われた。春を感じさせる陽光が縁側から差し込み、午後は快適な茶時を楽しむことができる。
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