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野尻さんのエレガントなアティチュードは、スーツ・オーダーにも貫かれていますよね。 |
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| 野尻氏： |
20年近くの間、ノーベルノート（batakの前身で正式社名）時代から中寺さんと付き合いながら試行錯誤を繰り返してきて、自分なりのスタイルが見えてきた気がします。それがどういうものなのかを一言でいうと、自分にとっての「適正なフィットと完璧なバランス」だと考えています。いわば、辿り着いた境地みたいなものです。つまり、オーディナリーなスーツのラペルの幅、ゴージ位置、着丈やウエストラインといったもののどれかひとつに手を入れるとバランスが崩れてしまうでしょう。他方、既製スーツのデザイナーというのは、バランスを崩す・変えるのが仕事だと思うんです。ブルックス・ブラザーズのコレクションを手掛けたトム・ブラウンが一番いい例でしょう。わざとボディの上の方へバランスをズラしてデザイナーの個性を出している。しかし、せっかくビスポークを作っているわけですから、僕はどこかが際立つようなことがなく、不協和音のまったくない「究極のバランス」を目指したいわけです。
今僕が着ているスーツは約3年前に注文したものですが、以後ずっとこのスタイルを堅持しています。それは、英国調ともアメリカ調ともイタリア調とも言えない。テイストは非常にニュートラル。中寺さんのことだから、パターンの基本は英国のスーツでしょうけれども、いわゆる英国的なディテールというのはまったく取り入れていません。コンケイブされた肩であるとか、スラント・ポケットだとか、長くて深いセンターベントだとか、そういうひと目で英国的だとわかるディテールは、すべて排除しています。ですから、普通の袖付け、普通の襟、普通の3釦段返り、普通のサイドベンツなんです。いま着ているスーツで、ゴージが上がっていたら「ゴージの高いスーツ」、襟幅が細ければ「ラペルの細いスーツ」に見えるじゃないですか。そういう風には見せたくない。どこにも主張がない。それが最終的にいちばんいいバランスだと思っているんです。ですが、こういうオーディナリーなスーツというのは狙いが伝わりにくいので、注文する時のテーラーとコミュニケーションに苦労しがちです。中寺さんとの長い付き合いとキャッチボールがあったからこそできたんだと思いますけどね（笑）。 |
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生地についての野尻さんの趣味はいかがですか？ |
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| 野尻氏： |
本来ならば打ち込みのいいヘビー・オンスのクラシックな生地が好きなんですが、最近は困ったことに年齢のせいでしょうか、ラグジュアリーな生地を選んでしまう（笑）。やはり120’s以上の、しなやかな生地についつい手が伸びてしまう。バンチ（生地見本帳）を手にとって手触りとか光沢とかしなやかさを確かめて、「これ、いいよね」と思うと、なぜかカシミアとかが入っている生地になってしまう。で、プライスを聞くと、恐ろしいことになっている。ちょっと悩みの種です。以前は厚くて野暮ったい生地の方が好きだったはずなんですけどね。今着ているスーツがカシミアとミンクの毛織り。軽いオンスのラグジュアリー系でもシッカリ打ち込みがある生地なので、冬でも寒くはありません。 |
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コーディネイトについてはいかがですか？ |
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| 野尻氏： |
コーディネイトについては、アラン・ヴェイルというフランスの美術評論家にはインスパイアされましたね。20年ほど前に日本によく来ていた人です。巨漢の体躯でモジャモジャの髭をたくわえた風貌をよくパーティでお見かけしました。基本的にスーツは英国調で、そのコーディネイトが実にフランス的だった。後で調べたら、サビル・ロウや香港のテーラーで仕立てていたらしい。そのスーツにバセロン・コンタンティンの時計をしていたかと思うと、香港製のプラスティック製時計を合わせている。遊びがあって、しかもエレガント。フランス人にはけっこうアングレ好きが多く、「オールド・イングランド」などその典型でしょうか。アラン・ヴェイルのコーディネイトは、たぶんステイタスやブランドではなく、単純にデザインの優劣で選んでいる感じがしました。ですから、自分の美意識だけでコーディネイトを形成している。その辺が素敵ですね。 |
